■ 11月29〜12月7日 12:00〜20:00(最終日〜18:00)
■ 井上光太郎作品展 『サンデーモーニング、湿った夢の続き』
■ 場所:新宿眼科画廊/スペースM+E
■ text : 大島賛都(サントリーミュージアム[天保山]学芸員)
半年ほど前、ある人を介して井上と会った。彼は、私が勤めている美術館のカフェで働いていて、
スタッフで絵を描いている人がいるので、ぜひ会って話を聞いてもらえないだろうか、というその人の紹介であった。
仕事柄、そのような形で若い作家の方と会い、いろいろと話を聞く機会は多いのだが、
井上が持参してきたポートフォリオをその時見て、彼の絵に、自分が素直に惹きつけられるものを感じたことが、
今、すくなからず鮮烈な記憶としてある。
彼の絵を見た際にまず感じたのは、そのオーソドックスな絵のあり方であった。
今日のいわゆる現代美術の表現において、いかに他の作家が足を踏み入れていない未踏地帯を発見し、
そこで独自性を打ち出していくか、というある種の戦略的な思惑が介在することは少なくない。
新しい表現や価値観の提示がおのずと求められる現代美術において、これは、ある意味、必然の成り行きでもあるし、
自分自身も美術を紹介する立場の者として、そうした視点で対応しようとしている部分があることは否めない。
しかし、井上の作品は、これとは極めて対照的で、他の作品や外部の状況との相対関係のもとで
自分の作品を作り上げていこうとする意識は、ほぼ皆無のようなのだ。
ただひたすら、自分のペースで、自分の問題意識にしたがって制作をする。
彼の話を聞いているとそんな孤高な制作の様子が浮かび上がってくる。
逆に、そうであるにも関わらず、他の同世代の画家の作品の中でも、ひときわ鈍く重厚な、
独特の光を放っているように見える点が、私が受けた印象の一端でもあった。絵画に取り組む基本的な姿勢として、
周囲の状況とは無関係に、自己の内部へと意識を深く下降させていきながら、自己との対話を通して絵を描いていく。
おそらく絵画としてもっとも原初的で純粋な動機にもとづくそうした行為が、彼の場合、
ほぼそのまま外部に発せられる表現の強度となっているように感じられる。
外部を遮断し自己の制作を真摯に直視すること、そして絵画の可能性に対するゆるぎない信頼感、
そうしたものが、彼の制作の礎になっていることは間違いない。
自己の内部への意識の沈下は、彼の作品の表面にそのまま現れていよう。
彼の作品の多くは、茫漠とした暗闇を背後に背負って、静かにたたずむ住宅を描いている。
そもそも住宅とは、それ自体に、たとえば、日常生活をつかさどる私たちの暮らしの拠り所であるとか、
住宅ローンという莫大な借金返済が介在する人生最大の目的行為であるとか、さまざまな意味が含まれるものであるが、
井上が描く住宅からそうした社会的な様相が感じられることはほぼない。
それらは本来の社会的な意味合いが作家の個人的な意識とそっくり置き換えられ、機能を帯びた建築物というより、
あたかも独自の意思や感情を備えた人格をもつ存在として描かれているように見えるのだ。
さらに、日本の町並みを構成する、個性が剥奪された規格化された日本の住宅のあり方との対比においても、
このことは、より一層際立って感じられよう。
そうした彼の描く住宅は、画面の内部から、見るものの意識の中へと、無言のメッセージを不気味に送り続けてくる。
こうした井上の絵画は、試行錯誤と逡巡を繰り返しながら、少しずつ前に進む地道な行為の集積となる。
ただ、制作の拠り所が自分自身の感性であればこそ、手探りのようにして進んでいくそうした制作において、
前方の視界が見渡せず、不安や閉塞感を感じたりすることもあるだろう。
確かに、そうした様相が、彼の作品の中に垣間見えるような部分もある。
しかし、その一方で、そうしたプロセスこそが、
見る者の意識を彼の作品に惹きつける上で、きわめて重要な要素を担っていることも事実ではないか。
私には、絵画に焦点が当たっているような状況にもある今日の現代美術において、
こうした「オーソドックス」な絵画のあり方が、
あらためて求められているものなのではないかと、井上の作品を見ながら想起させられるのである。
大島賛都(サントリーミュージアム[天保山]学芸員)
■プロフィール
井上光太郎 Koutaro Inoue
1982 鳥取県に生まれ、主に奈良で育つ
1998 橿原学院高等学校美術科卒業
2004 大阪美術専門学校美術・工芸学科美術専攻卒業
2005 大阪美術専門学校芸術研究科美術専攻絵画コース卒業
〔Solo exhibitions〕
2003 井上光太郎展 (不二画廊/大阪)
2005 井上光太郎展『皆が寝静まった頃、パーティーは開演する』 (ギャラリー白3/大阪)
2007 井上光太郎展『彼らは今日も影夢の続きを見ている』 (ギャルリー・ウー/大阪)
2007 井上光太郎展『白い時間、夢うつつ』 (ギャラリイK/東京)
2008 井上光太郎 公開制作展『影の時間、浮き出た雨模様』 (ギャラリーはたなか/大阪)
〔Group exhibitions〕
2004 音楽にまるわる展覧会 (ギャラリーR.P/大阪)
2004 Heimen.5人×2 (ギャラリーR.P/大阪)
2004 こみまる展 (吹田文化まちづくりセンター『浜屋敷』/大阪)
2004 Heimen.5人 (ギャラリーR.P/大阪)
2005 音と音楽にまつわる展覧会 (ギャラリーR.P/大阪)
2005 こみまる展 (吹田文化まちづくりセンター『浜屋敷』/大阪)
2006 thing matter time 2006 (信濃橋画廊/大阪)
2006 クンスト クラフト クルップ 「春の座」 (ギャラリー白/大阪)
2007 U35-500人アーティスト小作品公募展 (横浜赤レンガ倉庫1号館/横浜)
2007 個のしごとIX (信濃橋画廊/大阪)
2008 日本コラージュ2008 (ギャラリイK/東京)
2008 ロックンロール拝謁 井上光太郎×行千草 (ミリバールギャラリー/大阪)